- HAKUYOU
2019・5月 ある日
仕事場に向かう途中、
トントンと肩を叩かれたように感じたので
後ろを振り返ったら
足がぐらついて階段から落ちた。
私は悲しくなってシクシク泣いた。
悲しい気持ちのまま小部屋に入ると、
おとこの頭が此方の方をチラリと見て奥の部屋へと行ってしまった。
(彼はいつも私より早く小部屋に居る)
(始業時間よりずっと早くから居る)
(そういう性分なんだと思う)
私は悲しみを振り払って仕事の準備を始めた。
私は悲しくないのだと自分に言い聞かせた。
悲しくないふりをする必要はありません、と
おとこの頭がお茶の乗ったお盆を持ってやって来た。
少なくともここでは
と、おとこの頭はテーブルにお茶のセットを置いた。
私は再びシクシク泣いた。
そしてオイオイ泣いた。
私はひとしきり泣いた。
その間、おとこの頭は黙っていた。
私はお茶を飲んだ。
そうすると、私は最初から悲しくなかったということに気が付いた。
私は可笑しくなって笑った。
おとこの頭も笑った。
私たちは声をあげて笑った。
いつもより少し遅れて、小部屋に眼鏡を掛けた羊が入って来た。
仕事が始まった。
